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第1章
見たこともない景色が、流れるように後ろへと過ぎ去っていく。実際には、何度か見たことが有るはずなんだけど、うまく思い出せない。
もう少しじっくりと見たいと思う僕の気持ちとは裏腹に、電車はタタン、タタンと言うリズムに乗せて僕たち乗客を遠くの地へと運んでいく。
「6年ぶりになるのか」
向かい合わせになっているボックス席には僕ひとりしか座っておらず、その言葉に反応する人はいない。それどころかゴールデンウィークだと言うのに、車内には立ち上がって見回してもポツポツと人が見える程度で、ほとんど貸切のような状況だった。
都会から新幹線と電車に揺られること約3時間。そんなところが、今日の僕の目的地だ。
どこまでも広がる長閑な田園地帯。それが数秒トンネルで途切れたかと思うと、いきなり目の前の景色が切り替わった。
透き通るようなとまではいかないまでも、都会の濁ったそれと比べれば綺麗と言える海が広がる。
流石に、この風景は覚えている。いや、忘れようとしても忘れられないだろう。
――大切な、大切だった友達との思い出の海なんだから。
「次は――――、――――」
トンネルを抜けてから数分もしない内にスピーカーから流れる録音された女性の声。それを聞いて慌てて持ってきた荷物をまとめると降りる準備を始める。
だんだんとスピードを落としていく電車に合わせるように席を立ち、開いたドアから降りると、とたんに潮の香りが広がった。
海を見たときにも思ったけど、やっぱり地に足を付けるのとは違ったみたいだ。帰ってきたんだな、そう初めて思えた気がしたから。
そう、帰ってきた。あの子と約束した場所に。思い出の場所に。
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