第1章

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 無人の改札を抜けると、辺りを見回すも何もない。駅前にはタクシーがあるものだとばかり思っていたけど、向こうでの生活に慣れすぎたせいかこんな光景もすっかり忘れてたよ。昔はそんなこと当たり前だったのに。 「しまったなぁ。バス……もそう都合よく有るわけないし」  こういっては失礼かもしれないけど、ここにバスの路線を引いたとしても絶対に儲からないだろう。それどころか利用客が0の日だって少なくはないと思う。  さて、どうしたものかと途方に暮れそうになった時だ。過ぎていった電車とは別の機械音が駅に近づいて来た。 「あれは……」  今にも止まりそうな軽自動車。その窓から片手を出して振っている人を見て思わずほっと胸をなで下ろした。 「よう来たな、和人」 「うん。久しぶり、じいちゃん」 「おぉ、大きくなったな」 「そんなに変わってないと思うんだけど、迎えに来てくれたんだ。助かったよ」  引いてきたキャリーケースを後部座席に入れると、自分は助手席へと乗り込む。ドアを閉めて、僕がシートベルトを付け終えるのを確認してからじいちゃんはゆっくりと車を出した。  窓を開けると、都会よりも少し涼しい風が車内に入ってくる。気温はあまり変わらないと思ったんだけど、気分的なものなんだろうか? 潮の香りも相まってなんだかそれが心地よく感じた。 「おぉ、久しぶりね。和人」 「ばあちゃんも。久しぶり。元気そうでよかったよ」  昔暮らしていたこの家にも、二人を残して引っ越してからはめっきり行くことも少なくて、祖父母が都内の家に遊びに来ることの方が多くなってきた。  6年ぶりになるだろう懐かしの家に入ると、昔から置いてある置物、時計。小さい頃は怖がってたらしいお面なんかもそのままの形で置いてある。  ばあちゃんが部屋を掃除してくれている間に家を見て回っていると、昔あの子と遊んだ庭もそのままの形で残っていた。  近くの柱には背比べの跡だろうか、二本の横線が低いところから徐々に上へと引かれて行って、僕の胸あたりまで伸びた所でそれが途切れている。 「14歳ってこんなもんだったっけ?」 「そうだよ。こんなに大きくなっちゃ、もう私じゃ線引けないね」 「ばあちゃんまで。去年会ったんだからそんなに変わってないよ?」 「そうだったかね。それより、ごはん食べるだろ? もう出来るから居間においで」
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