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10年前の葉月は、髪も長くて、笑顔とか本当に可愛くて女かと思ってた。
8歳の俺は胸がドキドキして、告白せずにはいられなかったんだ。
こんな綺麗な人、早く結婚の約束をしなきゃ盗られると思って。
なのに、男なんて。
爆笑して床に転げた父さんたちと、ふんわり笑う葉月がずっとずっと頭にこびりついて離れない。
くそムカつく。
「けい君は、大学行くんですか?」
客のシャンプーの後、ドライヤーで乾かすのを他のスタッフに任せて、葉月は俺の隣に座るとそう切り出した。
「そう。葉月がガンガン働かなくても俺が養ってやりたいからな!」
然り気無くいつも通りアプローチするが、葉月はスルーする。
「ここは継がないって事?」
「…………」
寂しげな瞳で言われたら言葉に詰まる。
俺だって葉月と繋がるこの店は無くならないで欲しいけど、俺は手先は不器用だしセンスないし。
「今日、夕飯でも一緒に食べませんか?」
葉月がソッと俺の頭を撫でる。
――子供扱いしやがって!
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