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木下から電話があったのは0時をまわってしばらくたってからだった。
今日はいわゆる接待と言うやつだった。
接待と言っても俺みたいのが参加するのはかしこまったものではなく、少し費用のかさむ情報交換の場。
コーダーの後輩の面倒を見つつ、ディレクターの仕事に関わり始めたことで、接待の席にも着くことが増えてきた。
店を出たところで先方と別れ、ホッと一息ついたところだった。
ジージーと小刻みに鳴るバイブ音を握って表示を見る。
「あ、木下だ」
一緒にいたプロデューサーにそう呟いて、軽い調子で電話に出た。
「お疲れ」
『市原さん!?もう終わってますか?』
俺の呑気(ノンキ)な口調とは逆に急(セ)いた木下の声。
声の向こうはざわついて、瞬時に夜の街にいることを察した。
木下は俺の返事を待たずに話し始めた。
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