ある部屋

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「死にます。有機物は元より、無機物の声まで聞こえてしまうのですから」 女と56号は白い廊下を出口へ向かって歩いてゆく 「R-56。わたしはあなたを作る過程でそれを発見しました」 「献身的な人間のお陰です」 「彼は亡くなりましたけど………」 -彼とは?- 女は喋らなかった 話を逸らす 「あの女は人間を解剖して、脳の入手に成功しています」 「脳に電極を繋げ、あなたの脳に近づけようと努力していました」 「考えてください。生きたまま脳を抜かれ、尚且つ実験されるのですから」 「あの女は神経を切らずして実験しています」 「被験者は耐えられるものではありません」 「100%の脳で体験する事より、脳を解剖される事の方が嫌だったのでしょう」 「そう考えた54人の被験者は、脳髄に手を持ってゆき」 「脳を握り潰しています」 女は透明な扉を開け、外に出る 「首を括るより、遥かに苦痛が伴います」 「あちらは長く弱い痛みですが、こちらは短く強い痛みです」 「誰でも死ねます」 車の鍵を開けた女は乗車する 「54人の被験者の為にも、本来の目的を思い出しなさい」 女を乗せた赤い車は、走り去った -目的- 56号は遠くへ消えてゆく車を見ながら呟い -目的………- 日は高いところまで上がっている
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