第1章

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 タチヤーナが何を期待してきたものか文山は知らない。タチヤーナの全部が好きだと文山は言った。タチヤーナは満足そうに目を閉じていた。  朗らかで明るく、活発なタチヤーナの陰、春色の衣服を好む薄着の少女の陰は、自分を味わうことだった。タチヤーナにはそれが止められなかった。毎日風呂場に一時間も籠っていた。罪の意識に苦しみながら、一人の喜びを何かが求め、抑えられずに一人悩んでいた。今日、その何かが文山に乗り移っていった。タチヤーナは文山に求められて、今までと同じ喜びを得られるようになった。タチヤーナの気は楽になり、体いっぱい文山に任せてみた。文山のあたたかさと重みとが、分かってくれているという安心を与え、これほど求められている自分の価値をタチヤーナは心に新しく感じた。    さてこの二人は、それから五年間、もっぱら体のつながりによって一種の夫婦であった。心は大人と子供とで、差の埋まる時はなかったが、心まで求めても幸せだったのは、歳が違ってこそであったろう。五年の月日を共にして、二人はもはや一緒にいる必要を思わなくなった。そしてタチヤーナが中学を卒業するとき、二人は別れたのだった。  タチヤーナの神経症は治っていた。今は自信があった。入った高校でスポーツ選手として力を伸ばしている。男子の人気も高かった。文山は会社を辞めて失業中だった。しかし人生の光を内に得て、生き生きとしていた。タチヤーナと同い年の高校生と知り合い、交際を始めた。おとなしくて女っぽいこの金髪の子の乳房が上下して揺れるのを見ながら、重い大人の人生をその体に予感して、文山はタチヤーナとの日々をよく思い起こした。しかしまた文山は、高校生の体を嗅ぐたびに、先へ進む気持ちを新たにした。高校生はすぐ妊娠した。文山は、全く新しい人生が前方に開けているのをようやく実感して、二人の人生設計に勇んで着手し始めた。  その後もタチヤーナから文山のもとへ、年賀状は毎年欠かすことなく来つづけた。
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