第八話 巌流島

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靴下のままで体育館に入ったため、摩擦力を味方にできず全力疾走はままならなかったものの、体育館を出て靴を履けば怖いものはない。 早坂には悪いが挨拶している暇もないので、グラウンドの片隅に置いてある鞄を回収次第直帰させて頂こう。 頭の中で校内のマップを表示し、最短ルートを設定。 脳内ナビゲートがスタートし、今度こそ全力疾走すべく立ち上がったところで、目の前に会話フラグを持ったNPC───ならぬ、体育教師を発見した。 「おう、すまんな赤坂。まさか倉庫の中にいるとは思わんで」 どうやら強制イベントらしく、コマンド選択の余地もなく、会話イベントに突入した。 清水さんはこいつから鍵を借り、ダッシュで駆けつけてくれたということらしい。 「いえ、とんでもない。次からは気をつけますんで。それじゃ」 限りなく短い口数で会話を終わらせるべく、会釈して無理矢理に打ち切るが、やはりそうもいかない。 「あ、待った。そういやボールの籠とスコアボード、外で使ったんだよな?ちゃんと足は綺麗に拭いたのか?」 足というのは、籠とスコアボードに付いているキャスターのことだろう。 屋外で使用したのならば当然砂で汚れているはず。 そこまで配慮が行き届かなかったのは本当に申し訳なく思うが、一生のお願いだから今だけは見逃して欲しい。
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