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斜悪との約束の時間まで、あと20分。
結局昼飯を食う時間なんてなかった点については後日早坂に何らかの形で償ってもらうとして。
自宅まで、良い子は真似しちゃダメなレベルで自転車をかっ飛ばせば、恐らく10分ほどかかるだろう。
早坂が清水さんからの連絡を受けるか、俺達が帰って来ないことに気づいて助けに来るまで、10分以内に済めばセーフ。
それ以上なら、俺は勝負から逃げた臆病者として斜悪に笑われることだろう。
「どうだ、繋がりそうか?」
あまり落ち着き過ぎると、うっかり睡眠不足を解消してしまうなんてことになり得るので、思考を中断し、携帯電話を操作中の千佳に話しかける。
「うん、電話には出ない」
「あちゃあ」
最悪の結果に、俺は思わずマットに寝転がった。
千佳は隣に腰掛け、俺の顔を覗き込む。
「早坂って人の電話番号、記憶してたりしないよね?」
「いくら頭脳派の俺といえどそれはないな」
「そっか……やばいね」
緊急事態であるが、俺も千佳もこういう時慌てる性質ではないらしく、二人揃って落ち着き払った溜め息を吐いた。
「一応、水美さんにメールもしといたけど。万事休すだね」
「仕方ない、奇跡を信じよう。奇跡は信じている者にしか起こらないのだから」
「それ、負けフラグじゃん」
二人で声を上げて笑い合い、しばらくしてからもう一度、息の合った溜め息を吐いた。
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