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「据え膳食わぬは……続き、本当は知ってるんだろ?」
千佳の両腕をマットに押さえつけたまま、俺は問いかける。
「お、男の……恥?」
千佳は僅かに顔を逸らしつつも、チラチラとこちらに視線を向けながら言った。
「正解。まさに今のこの状況だよな」
不意にスイッチを入れられ、滾ったアドレナリンは、俺から冷静な判断力を奪いはしなかった。
むしろ頭の中はやけにクリアで、目の前のこと、今しようとしていることに全神経を集中させてくれる。
千佳の意図を汲み取り、俺の突発的な欲望をどう満たすのが最も効率が良いのか。
千佳のマウントポジションを維持しながらそんなことを考えていると、一筋の光明が差し込んだ。
比喩ではなく、文字通りの意味で。
「赤坂くんっ、いるっ!?」
顔も首も汗でびっしょりと濡らし、肩で大きく息をしながら、俺のクラスメイト清水瑞穂は、差し込んだ光の中にいた。
服装はバスケウェア。
アドレナリンが豊富に分泌され集中力の増した俺の脳は、一瞬で状況を察した。
恐らく、説明会のため体育館が使用できず普段は午前中に行っていた女子バスケ部の部活動時間が今日に限って午後になり、説明会の片づけが終わり体育館が使えるようになるまでの間ロードワークでも行っていて、体育館が空いたので一旦休憩をとることになり、そこで初めて携帯電話に入っている千佳からのメールに気がつき、早坂に連絡するより走った方が早いという判断をしたのだろう。
まさか学校にいたとは予想外だった。
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