第五話 慌ただしい夏の幕開け

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小学生だろうと中学生だろうと高校生だろうと、夏休みは平等に訪れるものだと、俺は信じて疑わなかった。 高校一年の夏を迎えるまでは。 「もうこんな時間かよ何やってんだよ暑いんだよ」 三教科分の夏期講習を終え、急いで鞄の中に筆記用具とプリント類を仕舞いながら、この夏期講習を企画した教師陣と周りに流されて受けてしまった自分自身と夏の暑さへの恨みを口に出した。 高校生という響きに憧れていた過去の俺よ、これが高校生だ。 命からがら期末試験を赤点なしで乗り越えたと思った矢先、教師陣から配られたのは「夏期講習申込用紙」というプリントだった。 一科目千円で受講させて頂けるこの罰ゲームは、成績優秀者であろうと赤点組であろうと受けることを強いられる。 金銭が発生している以上、これがカリキュラムの範囲外で、実際は強制力など微塵もないことは明らかなのだが、教師に「将来大学に行く気がある奴は全員受けろ」と言われれば、七割近くの生徒はあっさりと洗脳されてしまう。 そして洗脳が通じなかった残りの三割の中にも、大衆心理に敵う日本人は少ない。 よって然るべく、ほぼ全校生徒が、自分の苦手とする科目を受けに7月中の登校を余儀なくされた。 もちろん、この国の全ての高校生がそうなのではない。 たまたま俺の通う高校ではそうであっただけだ。 だからこそ、俺は全国の学生から遅れをとることに焦りを感じ、こうして素早く帰宅しようとしているのだ。
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