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「おおっとぉ。何を急いでんのかねぇ、赤坂くんよ」
そんな時に限って、やっぱり立ちはだかるのはこの男である。
適度に跳ね、適度に反り返ったエアリーな髪型をした今時の男子高校生、早坂清隆は、両手を開いた姿勢で俺の机の前に立った。
「どけ、早坂」
「そうはいかねぇ。今お前を行かせるわけにはいかねぇんだよ!」
教室のどこかから「始まった、W坂劇場」と期待の声が上がる。
いつもなら、クラスのムードメーカー早坂に付き合って4、5分程度なら茶番を繰り広げてやってもいいところだが、最近の俺は違う。
一刻も早く、家に帰りたいんだ。
「いや、そういうのいいから。俺早く帰りたいんだけど」
「ノリ悪っ。もしかして、また妹と遊ぶ用事か?」
早坂に限らず、俺があらゆることよりも妹を優先することはクラス全員が知っている。
「流石シスコン番長。だけど、話だけは聞いてくれないか」
「何だよ?」
「今ってさぁ、一応夏休みじゃん?」
「そうだな。毎日教室でお前の顔見てるとそうは思えないけど」
「『教室で』見てるとそうだよな。じゃあ、夏っぽいとこで見たらどうだろうか?」
ドヤ顔で言う早坂に、俺は露骨に時計をチラ見しつつ首を捻る。
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