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パタン。襖は乾いた音を立て、すぐに閉まる。
頗る変な男だ。雨里は一人首を傾げた。
――ポタリ、ポタリ。
ベランダが設置されているようだった。外では雨の雫が、規則的な音を立てて地上へと落下している。
不気味な程の、静寂。
糸が垂らされた白い照明の光は、寒々しい。
それに相反して、室内の気温は服を脱ぎ捨ててしまいたくなる程蒸し暑い。
(……本当にロープなんてあるのかしら)
雨里は疑問に思い、トランクをテーブルの前に置いて、隅っこにあるタンスへ近寄った。
二番目の引き出しを、そっと開ける。
あった。荒縄は、ちゃんとそこに存在していた。太い、ちょっとやそっとじゃちぎれそうにないロープだ。
首吊りに適している。
雨里はそれを引っ張り出した。そうして早速、梁に引っ掛けることにした。
それには、椅子が必要になる。
「ええと……椅子はどこにあるかしら……」辺りを見回す雨里の肩を、誰かがトントンと叩いた。
振り返った先には、目の上が醜く腫れ上がったお岩のような白い着物姿の女が立っており、雨里に木造の椅子を差し出している。
「ああ、ありがとう」
雨里は椅子を受け取ると、それに乗ってロープを結び始めた。
何かがおかしい。
雨里は一足遅く、それに気づいた。
振り返って見るが、そこに女の姿はない。
(……幻覚まで見えるようになってきたわ)
雨里は軽い目眩を覚えた。
――ポタリ、ポタリ。
雨の音は絶え間なく続く。軒下へ落下し続ける。
――ポタリ、ポタリ。
ポタリポタリ。
コツン、コツン。
雨音に混じり、硝子を叩くような音が聞こえた。
雨里は不思議に思い、窓の外を見る。
カーテンも閉められていない窓の向こう側には、子供が立っていた。
顔の殆どが、巨大な一つ目の。
彼はにっこりと笑って言った。
「僕と遊ぼう、お姉ちゃん」
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