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「あちゃー、これはやられてますね。ゴシャッ、と」
白衣で身を包んだ獣医、茨木 満子は、気の毒そうなそぶりで言った。
それを聞た厳つい男は、リンゴくらいなら軽々握りつぶせそうな拳に力を込め、何もない空間を殴り、畜生、畜生と洩らす。
「生き物はいつかは必ず死ぬんですよ。このコは、たまたま今日だっただけでね」と諭すように言った茨木を、男は睨み付ける。
「ああもう、これだからヤクザは怖いなぁ、まったく」
茨木が怯まずに皮肉ると、男はかけていたサングラスを床に叩きつけ、割る。
薄暗い路地裏。そこには、一匹のチワワの死骸がある。それを取り囲む、獣医の自分と発狂するヤクザの男。そんな突飛なシチュエーションに置かれて、茨木は実に愉快に思った。
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