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毒島(ぶすじま)は、不憫な少女である。石橋を叩き割って、あえて泳いで川を渡るような、人生を送っている。
「おいブス、邪魔なんだよ」色黒の女子生徒は、なまはげじみた顔をして、吐いた。
毒島はぶすっ、とした表情で、机に頬杖をつきながら、「うるさい、秋田に帰れ」と返答した。
色黒はわざとらしく舌打ちし、「これだからデブは困るんだよ」と毒づきながら、毒島を避けるように離れていく。
毒島はやれやれ、と達観した様子でにやつき、スマートフォンを触ってロックを解除した。
毒島に友達はいない。よって通話やメールをやりあう相手もいない。ちなみにアドレス帳に登録されている名前は、右手で数えきることができる。
そんな彼女はこの端末で、何をしているのか。それは、読書である。電子書籍というやつだ。太くてつやのある、シャウエッセンソーセージみたいな指で画面をなぞると、紙の書籍と同じようにページが捲れるのを毒島は愉快に思った。
無料でダウンロードした太宰治の『HUMAN LOST』を読みながら、足下に位置するスポーツ・バッグに手を伸ばした。中から、スポーツ特有の友情やら努力やら勝利とは一切合切関わりのない、むしろこれらを冒涜しているような、袋を取り出す。薄くスライスしたじゃがいもを油で揚げたそれに、ストロベリー入りチョコレートがコーティングされている、という代物である。
ばりばり、と乱雑に袋を開封して、ばりばり、と粗野に中身を頬張る。甘味と塩気が絶妙に共存している、至高の菓子であった。片手にあるスマートフォンのなかに綴られている、脳病院が舞台の狂気に満ちた物語とは対照的だ。休憩時間が終了する頃には、袋は平らになっていた。
毒島は午後のカリキュラムを適当に聞き流して、放課後になると誰よりも早く教室をあとにする。部活も恋愛も友人との他愛ない会話もない。
校舎を出て、駐輪場にある自分の自転車へまたがる。周囲の、「お前が乗って大丈夫なのかよー」という嫌味はもう聞き飽きた。
自転車のアシストにべったりと貼り付くように依存しながら、平坦な道を進む。道の両端には、シャッターの閉まった店舗が連なっている。毒島はこの、自分を蔑ろにする、都会になりきれていない中途半端に栄えたこの街が大嫌いだった。
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