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複数の視線を受けて、安芸鷹元はにこっと笑って語りだした。 「コレは人づてに聞いた話になんだけどね……」  一人の大学生が一人暮らしをはじめた。 やや古い建築のアパートだったが、意外と交通の便が良くて防犯セキリュティもしっかりしていて、狭いとはいえベッドと勉強机と本棚、それにテレビまで置いても生活できるくらいの広さがあったと言うから、願ったり叶ったりだろう。  勉強して生活費を稼ぐためにアルバイトにはげんで、サークルに入ったり大学でできた友達と遊んだり、忙しいながらも充実したキャンパスライフを謳歌していた。 そんな彼女にはある趣味があった。別に変わったことじゃない、一日一回は必ず動画投稿サイトを観るというだけ。  そのサイトはとても人気があるから、彼女の友達にも同じ趣味を持つ人は多かった。その子はノートパソコンを持っていて、それでサイトを観られたから、一人暮らしでパソコンが無い友達を部屋に招くことが多くなった。  ある夜、高校時代から友達といつものようにそのサイトを観てみると、投稿されたばかりの動画でまだ一回も再生されてないのを見つけた。 投稿コメントはゼロ、タイトルも無題で一体何の動画かわからないものの、気になるし、一番手になりたいということもあって、一人の友人とその動画を観ることにした。  ――その動画は、はっきり言えば、変な動画だった。何をしたいのかもわからない、本当に意味のわからない映像だった。 変な人が、体格からしてきっと男だろうか、ベッドの他には本棚とポスターしかない部屋の中で、奇妙な動きを繰り返すってだけのものなんだ。  全身包帯だらけで猫のお面を被った人間が、無表情で、ひたすらカメラを直視しながらとにかくくねくねくねくね踊っている。 なにコレ変なのって失笑しながら二人はなんとなくその動画を観ていた。そしてタイムバーが半分まで来たくらいの時に、友達がふと後ろを振り返ったんだ。 勉強机でパソコンを開いているから、後ろにはベッド以外に何もない。  それでも何回か振り返っている友達にどうしたのって訊ねてみても、友達は生返事を返すだけ。一緒になって振り返ってみても、ベッドと壁に貼ったポスターが記憶の通りにあるだけだった。  変だなあって思いながら動画を観ていると、さっきは生返事をした友達が、急に画面の一部を指差して言った。 「コレ、あのポスターと一緒じゃない?」  ちょっとの間眺めてみて、彼女も同じ結論に辿り着いた。ああ、あたしの部屋のポスターと一緒だな。ちょっとイヤな偶然だよねって笑おうとした時、今度は部屋の主が先に気付いた。彼女はマメな性格で、ベッドカバーをちゃんと掛けてあった。男の後ろにあるベッドのカバーと、自分が今使っているベッドカバーが全く同じ物だった。  それに気付いた瞬間、彼女は一気に恐怖の底へと落ちていった。だって、その男が踊っている部屋はまさしく彼女の部屋そのものだったのだから。彼女の異様な反応に、流石に友達も気付いた。 「あんた、こいつと知り合いなの」  彼女は男に欠片も見覚えなんかなかった。絶対に知らない人だった。 「知らない、知らないわ!」  ――気がつけば、動画はほぼ終わりに近付いていた。男はふと踊りを止めて、しばらく直立不動でカメラを――こっちを見つめていた。これで終わりかな、なんて思った矢先、ミイラ男はすっと背を向けて移動した。狭い部屋の中、ベッドに向かって。男は腰をかがめて床まで垂れているベッドカバーをめくりあげた。そしてお面を外してにこっと笑う。  中年で人のよさそうな顔立ちをした男は、当然のようにベッドの下に潜り込み、そのままカバーを元のようにおろして……そこで動画は急にブラックアウトした。タイムバーは一番右端で止まっている。終了だ。二人が思わずベッドを振り返ると、窓なんて開けてないのにカバーの端が風に吹かれたみたいに、ちらちらっと揺れていた。 「おしまい。……うん、本当にココで終わりなんだよね。あ、でも包帯お面男が踊ってる動画は探せばどこかで観られると思うよ。僕も実際観たからね、全部」
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