初めての喧嘩

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「ッ、っ、っ、お、っぉまえ何やってんだ!」 我に返って慌てて相手の胸を押す。 「何ってキスだ」 「キ、キス……」 改めて音声にして発されてしまうと 恥ずかしくて堪らない。 自分でも顔が赤くなっているのが分かる。 そんな俺の顔をじーっと見つめ、 肩を押さえる龍。 「兄貴……いや、蓮。 俺はお前が大好きだ」 彼はニコッと笑った。 そう、俺が見たかったのは、 俺が龍に求めていたものは この幸せそうな笑顔だ。 久し振りその表情を見せた龍は 今までで一番綺麗だった。 心臓の音が高鳴る。 色々な思考が混じり合って ただ相手にされるがままにしか 行動がままなら無くなる。 言葉を発する余裕なんて無かった。 龍に好きと言われたことも、 同性にキスされたことも、 そして笑ってくれた事も。 多分この一瞬は俺の人生で 忘れられない瞬間になる。 「蓮。俺は強くない、 俺は蓮に守ってもらいt…… クソッ、恥ずかしいな……」 少し視線を逸らし頬を赤く染める龍。 俺はこの時彼の一つ一つの行動に 時めいてしまっていた。 「守って……くれ。 今まで気付かなかったし…… 気付いても強がってたと思うけど…… 俺は蓮がいないと何も出来ない」 息を一度吸って俺を真っ直ぐに 見つめる龍。その瞳は真剣で 俺は何も分かってやれていなかった、 と心の奥で反省させられる。 「……駄目か?」 と思うと龍は照れ隠しなのか 俺の胸に顔を押し付けてくる。 この15年の間築かれて来た龍の イメージが、ジェンガのように 一気に崩れて行く中で、 俺は見失う事なく 今の彼を受け入れていた。 「お、おう……ごめんな。 俺、龍が俺に構われるの、 嫌だって勝手に……」 「違う……、変な行動したのは…… 俺だから……謝んな」 そっと上げられる龍の顔は 口角が少し上がっていて 目元は潤んでいた。 きっと本当はもっと満面の笑みを 浮かべたいのだろうけど、 彼なりに変な所を強がってるのだろう、 龍らしいや。
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