早々に文化祭

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「圭太はクラブ入るか?」 何となく聞いてみる。 「ん、別に考えて無いけど」 「そうか」 「お前は?」 「俺も考えてない」 荘へ続く道を歩く。 少し長いが風が心地良くて静かだ。 龍は一歩先を歩いて 時折木々の葉を触ったりしている。 ああ見えて自然や動物には 優しいところがある。 「あっ……」 草陰から猫が出てきた。 クリーム色のふわふわした 細めの猫で、恐らく ペットの飼育が許されている この学校の生徒のものだろう。 彼はその猫に駆け寄ると そっと頭を撫でた。 横から少ししか見えなかったが、 滅多に見ない子供のような笑みで 猫を撫でているのが見えた。 それは10万円くらいの宝くじを 当てるくらいレアなことだった。 「この猫飼い主は?」 ぎゅっと猫を抱き締めている 龍を見ながら言う。 「さあ。でも確か荘に帰るまで ペットは荘のリビングのケージに 入れとくって決まりだったと思うぞ」 「飼い主がわざと放した訳じゃ 無かったら迷子って事か」 俺と圭太が相談している間も 龍は猫をずっと撫でていた。 ……かつて彼が愛していた あのキュウのように。 きっとまだ心の中に 抱えているのだろうか。 中学3年くらいになって 少し落ち着いて来たように 思っていたが、きっとまだ 強がってる部分が恐らく あるのだろう。 龍には辛い出来事が多すぎた。 だから兄として俺が…… 「蓮、おい蓮。」 気が付くと圭太に肩を 叩かれていた。 「ああ、ごめん。」 「取り敢えずこの猫、連れて帰る。」 龍はそっと呟くと荘に向かって 歩き出した。
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