1人が本棚に入れています
本棚に追加
人の寝静まる深夜二時を過ぎた頃、月明かりに照らされる女は一人歩いている。
「奏(かなで)様」
「何してんだ、紡(つむぎ)」
「お迎えに参りました」
奏と呼ばれたその女は不機嫌そうに眉を寄せて金の髪を編んだ男を見やる。
「誰に言われて来た?」
「瑪瑙様が、奏様はまだ帰られないのかと・・・」
「あと一時間で帰るって伝えとけ」
「御意」
紡は闇に姿を消し、残された奏は今日を思い返す。
今日助けた三兄弟、あの家の親をよく知っているのだが子供もなかなかややこしいことになっている。
ただの人として生きるよう言ったが子供にも綺麗に血が継がれており、なおかつ末の子供は上の二人よりも血が濃い。
物の怪、妖の中には人として生きることを選び子供にそれを伝えない場合が多い。中には妖としての質を子供のうちに封じ込めてしまうこともあるのだが宮原家もその家のひとつだ。
だが力を封じることには失敗しているようで母の能力を継いでしまい、だがまだ体は人に近い。
いつ伝えるのか、はたまた伝えないのかは分からないがどちらにせよ狙われやすいことに変わりはない。
力を持つ人間を餌とするも物の怪に、力の弱い妖を餌とする物の怪に。
「仕事が増える・・」
最近は火をつけたように人を食らおうとする物の怪が多くなっている。裏で誰かが促していることはわかっているがまだ主犯が見つかっていない。そのことだけでも手一杯であるというのに問題は次から次へと起こるものだ。
そんなことを考える時間もくれないらしい、少し離れた場所で人に近づく気配を見つけて足を向ける。
「片付けて、帰るか」
なんだか今日はひどく疲れたような気がする、そんなことを思いながらただ足を動かし、いつものように消し去って。
表を歩くモノが裏へと足を踏み入れた歪みから生まれるのは新たな物の怪か。
最初のコメントを投稿しよう!