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翌日、恵が外へ出るのを怖がるのではないかと心配したがそんなことはなく保育園にもいった。
清音はばっさり切った髪を友達に驚かれ、和月は変わらず薫と顔を合わせる。また日常が戻ってくる。
あまりに衝撃的な色の変え方をしてもまた同じ色に戻る。
何度も何度も絵の具を混ぜて色を戻してはまた変えて、いつかもうどちらかに戻れなくなるそのときまでは今を繰り返すのだろう。
和月は授業中そんなことを思う。
教室の中には人間と、そうでないものとが混ざり、自分は今そのどちらでもないことが気味が悪く不安になる。それでもここから逃げ出すことはできなかった。今まで築いてきたものを裏切ることが恐ろしくて。
「和月、昼ごはん食べるよ!」
この幼馴染が今日も変わらず目の前にいる。
「おう」
今はこれが続けば良いと思う。
薫は何も知らず居てくれれば良いのだと、でも、自分と関わっていたらいつか彼女が化物の餌になるかもしれないとも考えた。
「なあ、薫」
「なによ」
「俺は夢みてたわけじゃなかった」
「なに、おばけの話?最近あんた変だよ」
「昨日も化物に追いかけられてた。清音も、恵も見えてて、三人で逃げてさ」
「・・・」
「俺ら家族、変なんだよなー・・・」
「今、あんたは私を殺そうと思うの?その化物みたいに」
「は?!思う訳無いだろ!」
「なら良いんじゃないの?あんたが変わってないなら別に」
弱気になればそういう類のものには漬け込まれやすくなる。
自分の意思をしっかり保ってきちんと立っていれば意外となんとかなるものなのだと薫は言う。
「そっか、そうだな」
危ない目にあったらどうするのかとも聞いては見たが「そんときはあんたをおいて逃げる」と笑って言う。
この幼馴染には敵わないのだなと改めて思い、それから感謝もした。
薫とそんな話をしたその日一日は平和に終わることができた。
妖を見ても普通にしていられたし、あまり難しく考えることもなかったからだろうか。
「ま、気楽にな」
ゆっくり知っていけば良いという意味も含めて呟いた言葉に薫が静かに頷いた。その横顔は長く真っ直ぐに伸びた藍の髪で隠れて見えはしなかったが、笑っているだろうと和月も笑った。
薫はただ前だけを見たままで。
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