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恵がようやくわたあめにたどり着いた頃にはすっかり日も落ちていて周囲は暗くなっていた。
そろそろ行こうかと和月が言うと先ほどの一本道へと戻っていき屋台の明かりで眩しい道を行く。
けれど途中からどうにも人の足が進まず、30分ほど足が止まった。
前の方から回ってきた話では喧嘩があって道がふさがっているのだという。これでは帰るのが遅くなってしまいそうだが家に帰るにはここを抜けないと出られないため仕方なくその人ごみのなかで立っていた。
自体が終息したのは一時間を過ぎてからだった。
「やっと進んだかー」
「長かったね」
恵は和月に抱えられて眠そうに欠伸をしている。
時計を見ればもう21時になっているので幼い恵は眠くなる時間だ。
だというのに、突然その目がぱちりと開いた。
「カズにーちゃ、けーおべんじょいきたい」
「お便所じゃなくておトイレって言えっていつも言ってんだろ」
「おべんじょ!」
「おトイレ!あーこの辺あったっけな」
ようやく道を抜けて横の小さな公園に行けば公衆トイレがあったのでそこへ連れて行く。一人でもできるだろうが外であるしと男子トイレに一緒に入った。
それで入ってから出てくるまで5分ほどのはずだ。ドアだって少し開けておいたはずなのに、全く出てこない恵を心配して開くとそこに恵の姿はなかった。
「恵!!なんで・・・清音!!恵がいなくなっ・・・清音?」
清音までもが姿を消した。
自分を驚かそうと思って隠れるにしても恵の状況は明らかにおかしい。何が起きたのか、頭の中で必死に考えてみればもう結果はひとつしかない。
トイレからでて明るい方へと走ってみればそこはもう人のいる場所ではなかった。
頭から角が生えるもの、尾があるもの、大きな体、異形の姿。
先程まで人が溢れかえっていた祭りの影などどこにもない。
店を開く人の影のような霊魂のような、鬼のようなものたちと酒を飲み人を食らうモノたちが。あれはここに迷い込んだ人間の足だろうか、そう考えると吐き気がこみ上げてくる。
けれど声を出してはならないと、口を塞ぎ後ろへ下がった。
「あら?人間じゃないの、こんなところで何をしてるのかしら?」
「っ!」
「ふふ、怖がらなくて良いのよ、私は人なんて食べないもの」
恐ろしく美しい女だった。
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