1人が本棚に入れています
本棚に追加
裸足で走り回ったせいで足は痛む、せっかく綺麗に着た浴衣もすっかりぐちゃぐちゃになってしまったし髪につけていた花飾りもなくしてしまった。ただ兄弟と祭りに来ただけなのになんだってこんな目にあわなければいけないのだと思うと涙がでそうだった。
けれど清音は泣かない。いつもそうだ。
「ミツケタ」
聞き取りづらい言葉がすぐ横で聞こえる。
顔を上げたのと同時に大きな手に首を掴まれキツく締められる。
「う、ぐ・・っ!」
「ウマソウ・・・マジョ」
「あ、うっ・・」
大きな口が頭を飲み込もうと開かれ、歯のない沼のようなその中に飲み込まれてしまうと目を閉じた。
「あれー宮原じゃん、なにやってんのー、こんなとこで」
スパンと綺麗に頭が落ちた物の怪のその後ろ、見覚えのある男が立っていた。けれどいつもと違うのは左右の瞳の色が違うこと。
「赤谷(あかや)・・・?」
「そーそ。お前とおんなじガッコの。んーお前人間じゃなかったけ?」
「人間、だけど」
「にしては、良いニオイするよ。魔女の」
「魔女・・・?」
「こっちの領域に入ったことで血が起きてしまったということか」
「え?なに?」
「僕が説明してやろう、着いてこい」
「・・・誰?」
赤谷亜月(あかや あつき)清音の通う高校の同じ学年の男子生徒、その程度の情報しかないが彼は背も高くどこか目立つ生徒であるのでなんとなくは知っている。けれど今ふいに聞こえた言葉は彼のものではなかったように思う。
清音の金の目が微かに光る。
「僕は聖(せい)だ。亜月のもう一つの人格といったところか」
「二重人格・・・ってこと?」
「僕の話はあとで良い。なんだ、歩けないのか」
「あ、いや、歩ける」
「その足でか?暗くて気がつかなかったんだろうがなかなか怪我をしているぞ。亜月、運んでやれ」
聖と名乗ったその人格の言葉の後に抱き上げられた。彼は亜月、なのだろう。のんびりとした性格の亜月と物静かな性格の聖、あまりに違いすぎて普通の人間なら信じもしないのだろうが、ここはあらゆる怪の存在する場所、そして彼もまた人間ではない。
人として世に住まう妖なのだろう。
亜月に抱えられたまま運ばれたのは望楼で、そこにはよく知る人物がいた。
「和月!!」
「清音!」
思わぬところでの再会ではあったがまだ恵は見つかっていないらしい。
最初のコメントを投稿しよう!