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カツン、カツンと音が鳴る。
地面を打つピンヒールが静かな夜の道に響き、汚く荒く吐き出される呼吸音はその音から逃げようと重く体を引きずる。
潰れた目からは涙と一緒に血が流れ、人と物の怪とがツギハギになった体の右の足はとうにどこかに落としてきた。
それでも逃げようともがくが、足音はまるで崖へと追い込むように後を着いてくる。
この世界の決まりを破った数時間前の自分をひどく呪った。
ああ、人を食べようなどと思わなければと男は地面を這いながら思い返す。
「もう逃げないのか?」
「い、やだ、許してくれ・・・っう、ぐ、二度と、もう、しない」
「今の世は人を殺し食うことは禁じられてるんだ、知ってるだろう?」
「許、し」
「妖が人を食らうのは昔なら人間が牛を食らうのとそう変わらなかったんだがな、今の世では許されないんだ」
壁に追いやられた物の怪の男は辛うじて見える右目で声の主を見上げる。
大昔から、人と物の怪が同じ世に居た時代から人を喰らいすぎる物の怪や、あまりにも残酷な手口で人を殺めた妖を取り締まるために存在する者たちが在る。
そのモノたちは今も生き続け様々な機械や建物が有る現代でも物の怪を取り締まっている。
人のほうが多く物の怪が少なくなった今、規則はさらに厳しくなり数が一人であろうとも、人を殺め食らうこと自体が罪となった。
しかし物の怪を人が裁くことはできない。それは現代の人間が物の怪を知らず、物の怪は姿を隠すためである。
不可思議な事件が出来上がる。それを解決するのが目の前に立つ人物なのだろう。
姿を見たものおらず、性別も知らない。
それが人の姿をしているのか、妖なのかもわからない。処罰を受けた者たちは必ず消されるからであった。
「本当は殺す必要はないんだけどな」
「あ、あ、助け、てくれ・・・るのか?」
目の前に銀の糸が引いたように見たそのすぐ後、左足がごろんと体から離れていった。
「ぎいいっ・・!!」
「いいや?」
男の目には顔立ちに幼さの残る少女の顔が映る。
目の前に糸を引いたのは彼女の握る刀だったのだろう、切り口は氷に覆われ出血することもなくすぐに命を落とすこともできず、ただただ激しい痛みと目の前にある恐怖の対象に身を震わせるだけだ。
彼女は殺す必要はないという、ならなぜ殺すのか。
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