冷たい青

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妹の恵は泣くこともなく、大きな目を見開いたままその影を見上げている。その影はて招くようにひらひら動く。 恵の名前を呼ぼうと口を開いたときには何も見えてはいない薫が先にドアを開いていた。 あの影が入ってしまうと思い思わず手を伸ばしたのだがその頃にはすっかり影は消え失せていた。 「恵ちゃん、迎えに来たわよ。いらっしゃい」 「かおるちゃ・・・!!うええーん・・!!」 しゃがんで笑った薫が差し出した手に安心したのか恵が泣きながら抱きつきいているのを見て、和月は肩の力が抜けるのと同時に不自然な場面を思い出す。 彼女が自分の肩に触れたとき、このドアを開いた時に消えた異形の姿。彼女にはそういう何かがあるというのは理解できた、けれど一番の不自然は自分なのだ。 昨日の夜から見えるようになってしまった人ならざるもの。 普通は目に映るはずのないその姿が見えるようになっている。そしてそれは妹にまで害を及ぼしている。 日常が荒く音を立てて自分の前から逃げていくのが見えたような気さえした。 「なに泣いてるの?」 「おば、おばけがね、けーのことよぶの」 「お化けがいたの?だからみんな泣いてたのね。大丈夫よ、おばけなんか私がやっつけてあげるからね!」 恵を抱き上げた薫が恵のカバンを和月に放り投げて歩き出す。 和月は投げられたカバンの紐部分が頭に引っかかりそれで意識がひきもどされ、慌てて二人を追いかけた。 「おばけこあい」 「大丈夫よ、きっともういないから」 もともと妖や幽霊なんてものは信じているいないではなくどうでも良いと思っていたのだがこうなってくると信じざるを得ない。 何がきっかけになったのかはわからないがあの女のせいなのか目の前で消えた化物のせいだったのか、どちらとも判断はつかない。 「到着ー、今度遊ぼうね」 「え?遊んでかねーの?」 「今日はね。恵ちゃんも泣いて疲れたでしょ」 「や!やだー!!かおるちゃとあそぶ!あそぶの!かえっちゃやだの!!」 「って言ってるけど・・」 地面に下ろされたとたんぐずりだした恵を見て薫は少し苦笑した。 もしかしたらこのあと予定があるのかもしれないと察した和月が恵を抱き上げるも泣き声が大きくなるばかり。 「お守りあげるわ、恵ちゃん」 薫は自分がつけている水晶のブレスレッドを外して恵の小さな手首にかけた。
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