冷たい青

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女が去ったあとすぐに窓を閉めると部屋のドアが開き、勢いよく振り返ると妹が立っていた。 「和月、なに朝から騒いでんのさ、うるさいよ」 双子の妹が和月の声で起きてしまったらしく不機嫌そうにこちらを見ている。 「あ、ごめん・・・」 「恵起きるでしょ。あんたもさっさと寝なよ。怖い夢でも見て寝れないなら一緒に寝てやるけど」 「いや、大丈夫だけど」 妹が部屋に戻ったのを見送り布団に潜り込むと今度は10分もすれば眠りにつき、和月が眠ってから三時間後に起きた恵にたたき起こされた。当然平日なので学校もあるので準備をして家を出ると家の前に薫が立っていたのにもまた驚いたがどうやら恵を心配して顔を見に来てくれたらしい。 「恵ちゃんどうだったの?」 「よく寝てた。昨日はありがとな」 「どういたしまして」 恵に挨拶だけして二人並んで学校へ向かうがその道中はあまり会話がない。薫はあまり口数の多い方ではないからでもあるがなにより寝不足でいまいち和月のテンションが上がりきっていないからでもある。 「あ、そういやお前って血筋に寺とか神社とかそういう職の人いたりしたのか?」 「あーいたかな。曾祖父さんあたり。なに、おばけの話?」 「なんとなくな。恵が嘘言ってるとは思えねーし、その、あれだ」 「最近変な事件も多いみたいだからね、別に私はそれがお化けだろうが化物だろうが知ったこっちゃないけど、不安から見るものもあるし、深く考えないようにしたらいいんじゃないの?」 「そう、だな」 見えないからそんなことが言えるのだ、そう言ってやりたい気持ちもあったがいったところで何も変わりはしないのだからと言葉を飲み込みそれ以上考えるのはやめようと心に決めた。 けれどもう逃げられはしなかったのだろう。 和月が物の怪を見たその日から物の怪と人の境界線は脆く崩れ始めていたのだと、後になって気づかされることになるのだ。 何も言わず少しだけはやく歩く和月のその後ろ、薫の表情はいつもの気の強さも、笑顔もなく、ただ水面を見るような顔をしていたことに、前を歩く和月は気づきもしなかった。  
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