プロローグ

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少し肌寒くなってきたとある十月の日のこと。 山下陸(ヤマシタリク)は高校生活最大ともいえるイベント当日の日を迎えていた。 そう、修学旅行である。 新幹線乗り場は陸を含む同じ学校のニ年生、約百二十名の修学旅行生で溢れ帰り、陸が周りを見渡して見ればクラスメイト達が楽しそうにこれからの予定のことを話していた。 普段怖い顔ばかりしてみんなに怖がられていた学年一の問題児の高橋でさえも、楽しみな気持ちを隠し切れておらず密かに笑みを浮かべていたところを目撃したのは、きっと陸だけだろう。 (アイツ、あんな風に笑うんだな……) 問題児さえもあんな笑顔にしてしまうこの修学旅行というイベントは凄いのかもしれない。と、陸は思った。 問題児の高橋が楽しさを隠せていないレベルなのだから、他の一般生徒に至っては浮かれすぎて周りに花が飛んでいるように陸には見えた。 そしてこんな浮かれ気分だらけの修学旅行生を、一般客は邪魔そうな顔をしながら見ている。 それを見るのがまた陸には面白くて思わず高橋のように笑ってしまいそうだった。 人間観察をしている内に、新幹線が到着する。 先生の引率のもとに、元々決められた新幹線の指定席に生徒達は座った。 陸の修学旅行の行き先は東京だ。 陸は静岡の県立高校の学生である。 そう、修学旅行にしては行き先が近すぎるのだった。 でも陸はそれでいいと思っていた。 そもそも陸は修学旅行自体にあまり興味がなかったのだ。 というか物事に関して何に対しても関心がないのかもしれない。 よく小学生の頃に、通信簿の先生からの一言で 「もっと楽しそうに笑ってみましょう」 「笑顔が少ないようです」 などを書かれ母親を心配させていた記憶があるみたいだった。 楽しかったら笑うし楽しくないときは笑わない。 話したいときに話すし何も話すことがないときは喋らない。 ( ……これが、普通だと思うんだけどな) そう、陸にとっては、普通のことだったのだ。 新幹線に乗り、陸は外の景色をボーッと眺める 先生の「一般客の方の迷惑にならないよう、騒ぎ過ぎないように!」という注意も虚しく、周りのザワザワは大きくなる一方だった。
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