1.黒衣エネの受難

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可愛いって、言う。 穢れに穢れた『濡れ鴉』の僕に可愛いって。 可愛いって言葉も男の僕は拒絶するべき言葉なのだろう。 でも、心のどこかで『嬉しい』って感じていた。 言葉自体じゃなくて、そう言ってくれる橙空さん自身に。 …籠の鳥風情が随分情に流されるようになったものだ。 「エネ君、また嫌なこと考えてたでしょ?」 バレてる。 橙空さんは僕の頬を両手で摘まみながら言う。 「…ひはいんあけお?(…痛いんだけど?)」 「お仕置きっ。そういうことばっかり考えるのは禁止ね。」 そう言って手をはなす。 「忘れろ、とは言わないし言えないけど、今のエネ君は昔と違うんでしょ?」 「…うん。」 そうだ、そうだった。 僕は今は『濡れ鴉』のエネじゃないんだ。 僕は『平和主義同盟』の黒衣エネなんだから。 僕が男娼として生きてきた過去は変えられないし、忘れられもしない。 でも、それが歩みを止めて良い理由にはならない。 僕はもう虚ろな器じゃないんだから、一度は失った『心』を取り戻したのだから。 昔は虚ろでも籠の鳥でも男娼でも何でも良くて、自分の身体を大切に思えなかったけど、今は違う。 僕を大切に思ってくれる人がいるから、僕は…
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