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可愛いって、言う。
穢れに穢れた『濡れ鴉』の僕に可愛いって。
可愛いって言葉も男の僕は拒絶するべき言葉なのだろう。
でも、心のどこかで『嬉しい』って感じていた。
言葉自体じゃなくて、そう言ってくれる橙空さん自身に。
…籠の鳥風情が随分情に流されるようになったものだ。
「エネ君、また嫌なこと考えてたでしょ?」
バレてる。
橙空さんは僕の頬を両手で摘まみながら言う。
「…ひはいんあけお?(…痛いんだけど?)」
「お仕置きっ。そういうことばっかり考えるのは禁止ね。」
そう言って手をはなす。
「忘れろ、とは言わないし言えないけど、今のエネ君は昔と違うんでしょ?」
「…うん。」
そうだ、そうだった。
僕は今は『濡れ鴉』のエネじゃないんだ。
僕は『平和主義同盟』の黒衣エネなんだから。
僕が男娼として生きてきた過去は変えられないし、忘れられもしない。
でも、それが歩みを止めて良い理由にはならない。
僕はもう虚ろな器じゃないんだから、一度は失った『心』を取り戻したのだから。
昔は虚ろでも籠の鳥でも男娼でも何でも良くて、自分の身体を大切に思えなかったけど、今は違う。
僕を大切に思ってくれる人がいるから、僕は…
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