第1章

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朝方、ちょっと寒かったから、布団を引っ張った。僕が引っ張ったのは、布団じゃなくて、人の手だった。 冗談じゃない。本当に眠いんだ。休みなんだから寝かせてくれ。 いや、こんな状況、寝れるわけない。 怖くなって目が覚める他ない。 まだ布団から出てないけど、今僕は窮地の地に立たされている。 で、ちょっと考えてみた。さっき触れたとき、暖かかったし、まず死体とかではないのは分かった。それから、握りしめたくなるような可愛らしい手。女の子と予測した。 あと、今気づいたんだけど、この子僕に乗っかって寝てる。太ももあたりに重さがある。 すごく正体が知りたくなった。で、再び手を触れる。今度は手を握った。やっぱり握り甲斐のある手だ。 「んー……」 女の子が動いた。ちなみに、電気もつけてないから彼女の顔が見えない。 電気をつけて、カーテンを開けてみた。 それに合わせて、女の子の全貌が明らかになった。 ちょっと茶色がかった黒髪のポニーテールに、睫毛がながくて、ぷるぷるした唇に、小柄な体型……朝の日の出のおかげで、すごく輝いて見える。 この子、なんか、知ってる。というか、誰かに似てる。誰だろ…女優とか、アイドルとか、そんなのかな。 「あっ」 僕に気づいたのか、女の子は目をまんまるにして、こちらを見た。 「ごめん、びっくりしたよね」 彼女は照れくさそうに頭をかいた。びっくりしすぎて驚けなかった。 「何しにここにきたのさ」 僕、初対面の人間にいう言葉遣いにしてはどうだろうか。 「君の家特定してて、着いたら寝てた」 なにいってんだ、泥棒とやってることと変わらないじゃないか。どこから入ってきたんだよ。怖すぎるだろ。 「名前は?」 「当ててみて」 は?なんだこいつ。にこにこしながら当ててみてって。なんか、思いついたのでもいっとけばいいか…… 「きい、ちゃん?」 「大正解」 嘘だろ。僕的好きな女の子の名前一位を挙げてみただけなのに。かわいらしくて好きなんだ、きい、って。
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