第1章

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あれからしばらく経って、大学の入学式の日になった。僕は着なれないパリパリのスーツを着て、わちゃわちゃした集合場所らしき所にいた。仲のいい笠原が唯一の知人で周りは知らない人でごった返していて、元人見知りには堪えるものがあった。笠原はどこにいるんだろう。 何か趣味が合う新しい友達が欲しいな、と思った。ひと、この間希衣ちゃんと熱く語り合ったのを思い出した。あんな子、ここの大学にいたらいいのにな。そんなことを思いながら、席についた。 今日はご入学おめでとうございます、うんたらかんたら。 ここのホールは高校とは違ってとても大きく、理事長の声がやけに響いて、寝ようにも寝れなかった。隣に座っていたいかにも大学デビューしたてのテンプレ男子は、その隣の男子の肩をバンバンしながら、どっかに可愛い子はいないか、と騒いでいたが、理事長直々にご指名を受け、ちょっとしゅんとしていた。 と、ちょっとホールがざわざわし始めた。 「あの子可愛いよな?」 と、テンプレ男子が目をキラキラさせながら今度は僕に話しかけてきた。 「まぁ、確かに可愛いよね……うん?」 目をぱしぱしさせて、首を前に突きだして凝視した。誰かに似てる――気のせいかな。 「一年代表の、高森希衣です。この度は――」 耳を疑った。もう一度壇上を見た。間違いない。この間の、不法侵入して朝っぱらからカレーを作らされた、あの、高森希衣だった。 話を聞いている限り、あそこの上に立つのには入試の成績トップならなければいけないらしい。嘘だろ、てっきりバカだと思ってたのに。 一通り文章を読み終えると、ぺこり、と一礼し、席に帰っていった。
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