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エルフの大移動が始まった。
自然と親しいエルフにとっても、アトラスの山々を越えて行くのは苦難の道のりとなるだろう。
雪深いアトラスの尾根を、エルフ達が進んで行く。真っ白い雪の世界に澄み切った青空、その美しさとは対照的な、エルフの黒いシミのような行列。それは冬の葬列のように陰鬱なものであった。
エルフスタンは振り返り、同胞達を見た。
「滅びゆく種族、か……」
ぼそりとつぶやいた。
エルフには、子供が産まれなくなっていた。
世界はエルフより人間を望んでいるのだろうか?
世界は新しい種を待ちわびているのだろうか?
アムルタに立ちのぼった紫色の竜巻は、ドーソイノが新たな種族を産み出した証しらしい。オークの時と同じだが、規模は遥かに大きという。いずれその新しい種族が台頭し、自らの首を絞める事にならねばいいが……
「ドーソイノ、人間よ、お前達は間違っておるぞ。……いや、子育てを間違ったのは、わしかも知れんな……」
エルフスタンは前に向き直り、真っ白な雪を踏みしめた。
終わり
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