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翼人は自分達が暮らす岩場から離れる事はなかった。人間達が岩場に石切りにやって来て、初めて互いに顔を合わせることになった。
コラ
互いにエルフの子等であったから、言葉は問題なかった。
翼人達は石を切り出す人間達に、ここは自分達の暮らす場所だから、よそへ行って欲しいとお願いした。
しかし、人間は聞く耳を持たなかった。
クミ ヤス
背の低い翼人達を、与し易しと思ったのだ。
石切は王の命令による国家事業、指揮を執るのは兵士の隊長だった。
隊長は、たった一匹でのこの交渉に来たマヌケな翼人に、不意打ちの剣撃を放った。
完璧な一撃、だったはずなのだが、剣は空を切っていた。
恥ずかしさと怒りで、顔を赤く染めた隊長は、すぐさま追い討ちの攻撃を放った。しかし、それも空振りした。隊長がもう一度剣を振り上げた時、翼人がその腕を掴んだ。
隊長は腕を振りほどこうとしたが、翼人の力は想像以上に強かった。翼人は隊長の手首を持ち、少し力を入れた。
パキパキと骨が軋む音がした。
「う、わぁぁあっ……っ」
隊長は剣を落とし、泣きそうな声を上げた。それでも、翼人は手を離さなかった。
「作業を止めて、帰ってもらえますか?」
「わかった!わかった!帰るから手を離せ!」
隊長は半べそをかいて叫んだ。
翼人は、握り締めた手を離した。隊長は膝を付いて、手首をさすった。激痛が走る。どうやら折れてしまっているようだ。隊長は脂汗を流しながら、苦悶の表情で翼人をにらんだ。
イチベツ
翼人は隊長を一瞥すると、フワリと舞いあがり、断崖の住みかへと飛んで行った。
部下の前で醜態を晒し、面子を潰された隊長は、怒りに打ち振るえていた。
恥ずかしさに怒りで蓋をして、隊長は叫んだ。
「本国に増援を要求しろ!あいつら捻り潰してやる!」
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