第1話 亜人戦争

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「ところで、わしがここを訪ねたのには訳がある。翼人のことだ」 「翼人の…?」  スルタンはふんぞり返って、つぶやいた。 「石を切り出しておるだろう?」 「ああ、その事ですか…」 「そうだ。あそこは昔から翼人が暮らしている場所だ。他の場所で石を採ってくれんかな?」 「あそこはアムルタ領ですから、手を引く事はしません」 「アムルタ領?好き勝手に地上に線を引き、そこを自分達の物だと言い張っても認めんぞ?陣地の奪い合いは人間同士でやればいい。他の種族を巻き込んではならん」 「あなたに指図されるいわれはない、エルフ殿。だいたい、名付け親だのなんだのと恩着せがましい。もはや我々は、数でも文化の面でもエルフを凌駕している。いつまでも先輩面するのは止めていただこう」 「確かに、人間の進歩は目覚ましいな。しかし、老いたりとはいえ親は親、子を正しき道に導く義務がある。少し野放図が過ぎたかな?」 「ほう?どう正すと言うのです?武力行使でもしますか?」 「望みとあらば、な。翼人は断崖に住み、エルフは森に住む。人間は草原に暮らすものだ。そうすれば衝突は起こらない。簡単な事ではないか?皆、誰に言われるでもなく、そうやって住み分けている」 「我らを亜人どもと一緒にしてもらっては困る。我らは文化を生み出せる種族です。ひとところに留まり、ただ生命が流れ去るのを待っているだけの種族ではない。新しい文化を次々に生み出しているのは人間だけだ。時代に対応出来ない種族は淘汰されるのみ。最も優秀な種族である人間のやることに、亜人の方々は口を挟まないで頂きたい」  エルフスタンは一瞬言葉を失った。 「そこまで不遜だったとは……エルフの中には、人間を悪く言う者もいたが、わしはそんなことは無いと思っていた。だが、あながち的外れでも無さそうだの。その傲慢さが、いずれ自身を破滅に導くだろう」 「人間が破滅するのであれば、それは亜人どもが破滅した後でしょうな」 「思い上がりもはなはだしいな。よかろう、もはや何も言うまい。ただ、翼人の土地から手を引かぬようであれば、わし等もそれなりの対応をする。よいな?」 「ふふっ、エルフ殿。脅しとは、力のあるものがするものですよ。力の無い者がするのは、何とかの遠吠えです」 「判断を誤るでないぞ、お主が亜人と侮る種族は皆、わしの子供達なのだからな」 「肝に銘じておきましょう」
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