第1話 亜人戦争

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 石切場での白兵戦は、人間側の圧勝だったが、森というエルフの庭では少し勝手が違っていた。  アムルタ軍は森に入ったものの、半日さまよい、未だその姿を捉えることができていなかった。  にもかかわらず、死傷者の数は増えていく一方だった。エルフは音もな忍びより、正確無比な矢を放っては消えていく。怪我人がでれば当然進軍は遅れる。アムルタ軍は深い森のなかで立ち往生してしまっていた。  アムルタ軍の将軍は隊を小分けにして、とにかくエルフを発見する事にした。しかしエルフは、人間が攻め寄せれば引き、引けは今度は攻勢にでる。小分けされた隊は各個撃破され、戦況は悪くなる一方だった。  人間が森を歩けば、ガサガサと木や草を揺らす音が立つが、エルフの場合は草木はエルフの身体に吸い付くように、避けるように、一切音が立たない。これはエルフ特有の先天的な魔法のようなもので、その他にも夜目が利いたり、どんな柔らかい雪にも足をとられない、といった能力もある。  姿が見えず、どこから飛んでくるかも知れない矢の恐怖で、アムルタ軍は恐慌寸前だった。  森の中では分が悪い。アムルタ軍は一度森から出ることにした。  負傷者を連れての退却は困難を極めた。密集隊形で矢の被害を減らそうとしたが、起伏に富んだ地形と木々の影響で、まともに密集隊形を組めなかった。その間にも、エルフの攻撃は止むことは無く、アムルタ軍は疲弊していった。  どうにか森を抜け出した時、森の中から「おおおう!」という歓声が森を揺らした。アムルタ軍を追い払ったエルフ達の声だった。  将軍は悔しさで顔を歪めた。しかし、怒りにまかせて森に突入しても結果は同じだろう。  そこで、将軍はある決断をする。  それは、エルフ対人間という戦いから、他の種族対人間という戦争に発展する決断だった。  翌日未明、アムルタ軍は森に火を放った。
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