死神少女

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 夢を見た。  一年前に出ていった時の姉さんと、幼い日のおれの夢。  姉さんは短刀で誰か知らない人に何度も何度も刺されて血まみれだった。そして苦しそうな声で何度も言う。「ユウルへ逃げなさい」と。それでも幼いおれは気にせず、つみきで遊ぶ。にこにこ笑って、姉さんを無視し続ける。  我ながら変な夢だったと思う。小さな子どもでもさすがに泣くぐらいはするだろう。不思議なことに夢を見ていたおれもグロテスクとも怖いとも思わなかった。今思い返すと、ぞっとするけれど。  姉さんに何かあったのだろうか。まさか。あの姉さんに何かあるなどないだろう。さすがに一年も帰ってこないから心配ではあるけれど。  さて、制服に着替えて学校へ行こう。そろそろ始業の鐘がなる。 ※  学校までは徒歩十分。コーク王国の首都ノルンの外れにある、レンガ造りの全く品を感じない巨大な施設が、おれの通う国立士官学校だ。ちなみに授業料は無償、というより給料がでるという好待遇。さすがは国の持ち物。給料万歳。  これで校舎が十分の一ぐらいの大きさになればお国様々であるが、無駄に広いので、校門入っても教室まで十分ほど歩かなければいけない。  一言軍人と言えど、兵として前線に繰り出すもの、密偵として活躍するもの、医学や薬学を主として戦線に出るものなど様々だ。そのどれもに対応するためにできた学校。どうしても広くなってしまう。  広いしレンガ造りというのにむだにいかついから、周りの平民の住宅街からは明らかに浮いている。まあ、学校の周りだけ道は広くて、レンガが敷かれているからそこまで景観を壊しているわけではないが。  おれの家の周りもそうであるが、平民が住んでいる地区は学校の周りを除けば、狭い上に土が剥き出しのでこぼこ道が続いている。  昨日は雨が降っていたから最悪だ。道がぬかるんでいるから、おれの靴はどろまみれ。帰ったら洗いたいが、靴もこれ一足しかないから学校のない週末まで無理だ。
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