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白猫は言葉を詰まらせた。
過去が頭の中でぐるぐるとまわる。白猫はその青い瞳でたくさんのものを見てきた。その中でも彼のやらんとしていることは嫌なものを思い出させる。
「大丈夫。まだ渡さないよ!」
「そうよね。あんただって行きたいんだもんね。というより、帰りたい、か」
「まあね! 弟とかお祖母さまとか元気にしているか気になるから。それに、あの子にきちんとあれを見せないといけないから、ね」
知らないのは彼だけ。一緒に旅をした白猫はもちろん、師匠も知っている。けれど、誰もが何も言わなかった。言えなかった。
「そうよね。あの性格だと見ないと信じなさそうだし」
「だから、安心して?」
「え、何で?」
「しばらくは大好きなりっくんと過ごせるよ、エリー?」
「ちょっと! 何なのよ!」
尻尾をぴんと立てる。少しだけ牙を見せてみる。しかし、カーラには通用しない。抱き上げられて撫でられる。暴れようとしてみたが、カーラの力が強すぎて体が動かない。さらに抵抗しようと爪を立てる。
さすがにカーラの力が弱まる。その隙をついて白猫はドアに向かって走る。
「あれ、その姿を見られていいの?」
「人の姿に戻るわよ!」
「それだと真っ裸だよ?」
「う、うるさい!」
「あ、こんなの着てみる?」
そう言ってカーラは鞄から服を取り出す。白いワンピースだ。ヒラヒラと何層にも重なったスカート部分。そして、背中にあしらわれているフリフリで大きなリボン。白猫は目を丸くする。
「絶対着ないわよ!」
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