第1章

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翌日。 今日は大学の講義は午後からだから、午前中はバイトに入った。 バイト先は数週間前から新しく始めたオープンカフェだ。 木質な作りとガーデニングが綺麗で、客入りもいい。 「「いらっしゃいませ!」」 カランカランと扉に設置されたベルが鳴って、店員全員が扉に向かって声を掛ける。 「……ぁ」 咄嗟に口から声が漏れる。 柑橘系の香りと、ストイックな雰囲気。 「永田、さん…」 間違いない。 というか見間違えるなんてあり得ない。 淡い青色のワイシャツに、細身のスーツを着ている。 永田さんも俺に気づいたのか、こっちを見て、ほんの少しだけ驚いたように目を開いたあと、優しく微笑んだ。 「ここの店員だったのか…」 「はいっ!あ、席、こっちにどうぞ!」 客ともに店員の目線も引くほどの整った容姿。 「俺ずっと奥の方で食器磨きしてたから…ホールからは見えなかったんですよ」 「そうか…。頑張るのはいいが、前のように倒れるまでやってはいけないようにな」 「はいっ」 前みたいに面倒みるのはゴメン、って事かな…? そりゃそうだ。 嬉しかったのも、楽しんだのも俺だけだろうし。 永田さんにだけは迷惑かけないようにしないと…。
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