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「どうしよ…全然思い出せない…」
起き上がってみると、額からペシャリと濡れタオルが落ちた。
着ていた上着もハンガーにかけられている。
「…ん、あぁ……起き上がって大丈夫か?」
ソファで寝ていた男性が目元を擦りながら声をかけてくる。
ドックンと跳ね上がる俺の心臓の振動は全身に響き渡った。
「あ、あのっ…俺……っ」
「落ち着け。俺は別に怪しい者じゃない」
壁にかけてあったスーツの内ポケットから名刺を出して俺に渡してくれる。
「俺は永田翔吾。名前は?」
「神道…千里です。俺何で寝て…」
永田さんが俺の座っているベットに腰掛ける。
ギシッと軋んで、少しだけ俺の重心が揺れた。
「俺の務めている会社の目の前で倒れていたんだよ。呼びかけても起きない上に顔色まで悪かった。会社の医者に診せたら軽い貧血だと言われて、身元もわからないから第一発見者の俺が一時的に預かる結果となったんだ」
原稿でもあるような模範的な説明をうけて、頭の悪い俺でも状況はすぐに飲み込めた。
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