第1章

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永田さんが少し目を細める。 表情の動きは少ないけど、永田さんはよく笑う。 「えへへっ!美味いです!」 「それは良かった」 天気予報が流れるテレビを見ながら、他愛のない話をした後、2時間ほど永田さんの買い物に付き合って、駅まで送ってもらって帰った。 「また来るといい」 帰り際、優しい声でそう言ってくれたのが嬉しかった。 家につくと、当たり前だけど柑橘系の香りはしなくて、連絡先を交換しておけば良かったかな、なんて思った。 「あ、名刺…」 ズボンのポッケから永田さんの名刺を取り出すと、会社名と電話番号が書いてあった。 良かった。 また来ていいと言われた。 嘘かもしれない。社交辞令だとはわかってる。 けど、受け入れられた気がして、どうしようもなく嬉しかった。 「…会いたい、な」 バイトの休みは今日までだ。 明日からまた大学とバイトと勉強が待っている。 また暇な時にでも会えたらいい。 そう思って、課題に手をつけた。
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