第一章 魔人(症)/1

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第一章 魔人(症)/1

N/(二〇〇八年・十月)  一年ぶりの空気に、懐かしさよりも吐き気が込み上げた。  北関東、G県の山奥。くねる道路を自動車で走る事一時間。  助手席でいい加減に吐きそうになりつつ我慢を続け、ようやくその場所に辿り着く。  高い外壁にぐるりと囲まれた内部は、空からでなければ中の様子を伺う事は出来ない。  入り口は正面にひとつだけ。自動車に乗ったまま門番に挨拶と許可証の提示。その先には二つめの関所がある。それを抜けて、やっと駐車場が見えてきた。 「すいません、トイレ行きたいんですけど……」 「はい、どうぞ。お疲れ様でした。場所は分かりますか?」 「ええ。前と同じなら」  助手席のドアを閉め、頭を下げながらフラフラと歩き出す。  見たところ建物は以前と何ら変わりなかった。  所々で秋色の赤が混じる緑をバックに、白くて大きな建物がどでん、どでん、どでん、と建ち並んでいる。  十階建ての塔のような棟が四つ。  八階建てが二つ。  さらに森に隠れた奥には十一階建てが一つ。  それらには地下の階まであり、その他に体育館のような施設もある。  この大仰な建物は何なのかというと、病院なのだった。  ある病気に感染・発症した者たちを治療、保護する為の隔離病棟。99年に設立され、以後増築を重ねながら今に至る。  曰く、病院でありながら要塞。要塞でありながら監獄――とは、関係者たちの間での専らの評判。  事実として、この病棟に送られた人間は九割九分この塀の中で一生を終える。過去には治療の苦しさのあまりに患者の脱走事件もあった程。  外敵の侵入、ならびに囚人――もとい病人の反抗を防ぐ為の武装部隊もあるとか無いとか。  正式名称、福祉医療統院。  略して医療院、または統院。  こうして述べるとまるで地獄のような場所だが、ここで実際に過ごしている者からすれば別にそうでもない。むしろ、ここに収容される者はここでしか生きられない。  だからこそ収容される訳で、外で生きられない彼らはここでなら生きる事を許されるのだ。色々な意味で。
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