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名前は薙 時子。呼称はトキコさん。
二年と半年ほど前にこの医療院に派遣されてきたスタッフで、恐いけれど美人で腕利きと評判な人だ。
いつも精神科の診察室に居るが、患者の精神ケアはおそらく不得手。しかし問題児の鎮圧は得意中の得意という謎の医者。ある特別な技能を買われ、医療院側に請われてやって来たのだという。
その偉大なお医者さん(?)は、何故か非常にご立腹な様子だった。
「……あのですね。いくら長い付き合いだからって、その溜め息は傷付きますよ? その、あんまり聞きたくないですけど、何か良くない事でもあったんですか?」
「あるに決まってる」
ばきり、とボールペンが圧し折られた。
その脆い備品すら気に喰わないのか、ちっ、と舌打ちまで漏らす担当官。人が憎けりゃ物まで憎い、という事だろう。
しかし折れても記述という用途にはまだ耐え得ると踏んだのか、その手は折れたペンを握ったままだ。使えるものは最後の最後までこき使うという徹底ぶり。
ちなみに彼女は柱居棗の医療担当官でもあり、彼が仮退院して後もずっと世話になっていた人だ。それは即ち、両者の主従関係が維持されているという事であり、今も頭が上がらない。
ナツメとしては、ひょっとして一生こんな関係が続くんじゃないかという予測が外れそうにない辺りで目下呆然中。
「まったく、病人の分際でふざけた手間を掛けさせる。乗り物酔いだか何だか知らんが、そんだけ元気でいられちゃ困るんだ。退院したとはいえ、おまえの病は完治した訳じゃない。症状として明確な根拠がある以上、病人らしく振舞っている限りは病人として扱われる。それをわざわざ健康アピールに戻ってくるような真似をして……。前に会った時に言ったはずだぞ。あまり張り切るんじゃない、と」
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