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第1章 魔人(症)
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刹那、月が静かに嗤う夢を視た。
◇
混沌とした意識のまま、仄かな月明かりの降る床を四肢で這う。
死にたくはない。死ぬわけにはいかない。
戦う相手は誰だろう。襲い来る敵か? 蝕む病か? 自分自身か?
何だって構わない。だがそのまえに生きなければ。
「――――、ぐ」
流出する朱と熱。
消失する心と体。
振り返れば、手にナイフを携えた少年が、闇に溶けるように佇んでいた。
『――そんなのは、苦しいだけだろう』
少年の目に感情は無い。
切り裂かれた右の腕。病魔の毒に冒される肉体。朱暗(あけぐら)い血だまりの真中、少年は刃を構える。
刻は今、真円(まえん)の月が静かに嗤う夜の果て。
私は憎悪で出来ていた――――
/ Natsume Hashirai.
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