その男ジョージ

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 恥辱を味わった朝の時間から数時間後。本日四回目の授業を終える直前、お昼休みのチャイムが鳴るのを、集中力の切れたクラスメート全員が待ち焦がれていた。かく言う私もその一人である。  いつもならお昼ご飯を待ちきれないなんて事は全くないのだけれど、今朝のジョージとの言い争いでエネルギーを使ったことが響いているようであった。  教科書を見る振りをしながら辺りを見回すと、既に教科書の城壁を築き上げ、その影に隠れてお弁当をいち早く食べている猛者も見受けられた。  はしたないので流石にそこまではしないけれど、私はチャイムが鳴り、終わりの礼を済ませると、机の横に掛けていた紺色のスクールバッグを持って早足で教室を出たのであった。  私が急いで教室を出た理由は二つある。一つは空腹の限界を感じていたから。しかしそれはおまけのようなものに過ぎない。本命は愛指さんから逃げること。  彼女はクラスの輪の中心と言えるべき存在である。その愛らしい容姿から、異性は勿論の事、同性からも好かれている。どの派閥内でもお弁当を食べることなど造作もない彼女は、何故か私の元へとやって来るのだ。  朝の日課があれであるのならば、これは言わばお昼の日課。付きまとわれない為にも早々に愛指さんの前から姿を消す必要があるのだ。
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