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半年前から私は夢を見なくなった。正確には見れなくなったという方が正しいのかもしれない。しかし、決まって同じ夢を見る期間が存在する。夢の内容は決して変わらない。それは耐えがたいほどの悪夢だ。
☆
木製の振り子時計から乾いた歯車の噛み合う音が室内に響く。聞き慣れたその音に私は気を取られることなく、ただ無心にページを捲っていた。
暫くして私はおもむろに文庫本を閉じて顔を上げた。壁に掛けられた控え目なサイズの振り子時計は夜中の3時を示していた。
ピンクのシーツがかかったベッドの上から立ち上がりすぐ側にある本棚の前へと移動した。今しがた読み終えた文庫本を丁寧にしまい、再びベッドへと体を沈めた。
「またつまらなかったな」
ひとりぼっちの室内で私は小さな声で呟いたけれど、その声は無機質な歯車の音に紛れて消える。誰もいないこの家に私の声を聞く者はいない。それももう慣れたことだった。
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