その男ジョージ

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 まさか今日に限ってお昼ごはんを持ち忘れるとは……北条稔子、一生の不覚である。空腹であるにも関わらず、屋上までの全力疾走で私の体力は底を尽きていた。  更にお弁当が無いという事実が私に追い討ちをかけ、私はその場にぐったりと倒れこんだ。あぁ、目の前で反射する光が何故か憎らしい。  学校内には勿論食堂や購買部がある。しかし、どれもこの場から程遠い一階にあるためそこまで行く気力もない。例え行く気力があったとしても、この時間はどちらも混雑が酷いため、私は赴かなかっただろう。  散らかしたバッグの中身を片付けることもせず、ただ無気力にだれて少し時間が経った頃である。  床に当てた耳からペタペタと何かが近付いてくる音が伝わってきた。そこそこの早さでやって来るそれは、恐らく鉄の扉の前で止まった。  鉄の扉はゆっくりと高い音を立てて開放される。扉が開いたと同時に屋上にはやや強い風が吹き、寝転がっている私の長めの髪と来訪者の襟足までの短い髪を透き通るように撫でていった。 「やっと見つけたよぉ、稔子ちゃんはシンシュツキボツだから見つけるのが大変だ!」  私よりも少しだけ明るい髪色で、前髪から後ろ髪に至るまでくるくるとあちこちに跳ねた癖っ毛の強い小動物チックな少女。舌足らずな言葉を引っ提げてやって来たのはやはり愛指さんであった。  
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