その男ジョージ

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 ☆ 「私はあんまりお腹空いてないから」という愛指さんのご厚意により、結局お弁当のほとんどを平らげた私はなんとか放課後まで無事に過ごすことができた次第であった。  なんとなく気になって帰りのホームルーム中に最前列にいる愛指さんの様子を見てみると、彼女は担任からの連絡事項を聞くよりも、いそいそと帰り支度をするのに夢中になっている様子だった。  愛指さんが他の生徒よりも極端に小さいせいか、先生は彼女に対して注意をすることはなかった。灯台の元は暗いようである。  ホームルームが終了すると私はすかさず教室を後にする。朝、昼と彼女の日課が続けば言わずもがなである。  階段を一段飛ばしで降りていき、下足室へ辿り着いたのは私が最初であるように見えた。黒のローファーへと急いで履き替え駆け出すと、長い下駄箱の一角から愛指さんが私の前に飛び出してきた。 「稔子ちゃん、一緒に帰ろ?」  小首を傾げ上目遣いで迫ってくる愛指さんは私の前をしっかりと通せん棒しており、逃げられる余裕など無かったわけである。  満面の笑みで私の返事を待つ愛指さんの方がシンシュツキボツだと私は思わざるを得なかった。  
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