その男ジョージ

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 愛指さんが本来降りる駅は学校から私の降りる駅よりも、更にもう一つだけ先であるらしい。いわば隣町であるのだ。  しかし愛指さんは毎日わざわざ私と同じ駅で降りる。依然一度だけその理由を尋ねた事があり、その時は笑って誤魔化されたのだけれど、普段の愛指さんの私への態度を見ればその理由はすぐに分かった。  だけど私はその事について言及するつもりもないし、あえて気付いていない体を装っている。気付いたところで私の愛指さんへの対応はこれからも変わらないのだから。  ホームから階段を上がり改札へと辿り着くと、改札の向こう側に何やら見覚えのあるスキンヘッドが仁王立ちをしている。私はそれが誰であるのかを理解するのに一瞬の間も必要とはしなかった。 「あれ? どうしたの稔子ちゃん?」   突然足を止めた私を愛指さんが不思議そうに眺めている。まずい、今ジョージに会ったら非常に面倒くさいことになりそうな気がする。と言うより、あんな厳つい男と知り合いだと知られたくない。  なんとかしてこの場をやり過ごす方法はないものだろうか。 「おや、稔子さんではありませんかー! お待ちしていたんですよー!」   いい案を引っ張り出そうともたもたしている内にジョージは私たちに気付き、大きな巨体全体を揺らすように激しく右手を振っている。  どうやら今日は何から何まで厄日であるらしい……それもこれも皆ジョージのせいである。
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