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私の気持ちなどお構い無しにジョージは私の名前を連呼している。とにかく今は他人の振りをしておかなければ。
隣にいる愛指さんは唖然としている様だった。至極当然である。
「稔子ちゃん、あれって」
「ち、違うのよ愛指さん。これはその……」
必死に弁明しようとしても言葉に詰まってしまう。あぁ、奴が私の名前を叫び続けている限りやはり言い逃れることは不可能なのね。
稔子なんて名前もそんなにありそうな名前でもないから他人説も使えそうにない。そもそも思いきり私に向かって言ってるし。かくなる上は改札を抜けたら一気に走って振り切るしかない。
私が完璧なプランを練っていると、愛指さんから想像もしなかった言葉が飛んできたのであった。
「あれってジョージ君だよね? うん、やっぱりジョージ君だよ! おーい、ジョージくーん!」
一体全体どういう訳なのか、興奮した愛指さんは改札へと走って行き一心不乱にジョージへと向かっていったのである。
愛指さんも負けじと小さな体で腕を大きく振るも、改札に定期券を入れ忘れ、無情にも通り抜け防止の警告音が鳴ったと同時に改札は強く閉められた。
「ぐへぇ」と女子からぬ声をあげたのは、彼女の腹部へと勢いよく改札の扉がクリーンヒットしたからであった。
一体何やってるのよ。
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