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悪漢――ジョージの常套句が飛び出したのだけれど、私はジョージの言うことは信用してはいない。ジョージは放っておいて愛指さんに詳しい話を聞けばいいだろう。
「悪漢馬鹿は放っておいて愛指さん、話を聞かせてもらえるかしら?」
「えとね、ジョージ君が私を助けてくれたのは本当なんだよ」
なんと。両手の人差し指をくるくるとペッタンコな胸元で回転させ、もじもじしながら話す愛指さんの様子を見る限り、どうやら嘘では無さそうである。
「ほら! 私は悪漢を退治しただけなのです! 稔子さんは少し私を疑い過ぎなのではありませんか?」
「…………愛指さん、続きをどうぞ」
疑う要素しかないジョージの言葉にストレスを感じるが、ここで構っては話が進まないと理解していたので華麗にスルーすることにしよう。
「悪漢じゃ無いんだけどね、男の人に道を聞かれたの。でも私はそこが何処なのか分からなくて。困ってたらジョージ君が突然横からやって来て――」
「思いきり突き飛ばしてやりましブヘァッ!」
「馬鹿か! お前は馬鹿なのか!!」
私は力の限り地面を蹴り、浮いた体に全体重を乗せながら右ストレートを繰り出した。ふわりと髪が宙を舞った後、私は綺麗に着地した。
体格の良いジョージではあるが不意の一撃が頬に決まり、その巨体は地面に数回叩き付けられた後、静かに体を横たわらせた。
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