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「はわわ、稔子ちゃん落ち着いて」
私の体を背中から強く抱き締め愛指さんは声をあげた。これが落ち着いていられるだろうか?
「完っ全にアンタが悪いんじゃないの! 人を突き飛ばしたりなんかしたら犯罪なのよ! 捕まったらどうするのよ」
駅から少し離れた閑静な住宅街に私の怒号が響き渡る。辺りに人はいなかったが、私の声に驚いたごみ袋を漁る野良猫や電線の上の鳥達は一目散に逃げていった。
やはりジョージは駄目だ。一発殴らないと物事を理解できないのだろう。更にもう一発ほど殴ってやろうかと思ったのだが、ここは必死に私を止めようとする愛指さんに免じて控えておいてやろう。
「さ、流石……愛のあるとてもいいパンチでした。そんなに私の事を心配してくださるなんて、本当にありがとうございます」
赤く腫れた頬を押さえながらジョージは立ち上がった。黒いスーツに派手な汚れがついたのを払いもせず、ジョージは丁寧にお辞儀をする。
殴られてお礼を言うなんてどんな信条の持ち主だろうか? そもそも私は先程のパンチに愛など微塵も込めてはいない。勘違いも甚だしいところである。
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