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「稔子さんもいとさんを名前で呼ばれてはいかがですか? ご学友なのでしょう?」
「ジョージ君いい考え。稔子ちゃん、私の事いとって呼んでほしいな」
二人は私に笑顔を向けそう提案してきた。だけど私は黙って首を小さく振る。それは出来ない。名前で呼ぶと言うことは自分が親しいと認めた者にすることではないだろうか。
私は愛指さんと名前で呼ぶほど親しくなれてはいないし、親しくなろうとも思わない。ジョージに至っては状況的に仕方がなかっただけで、そこに親しさなど皆無なのだ。
「そっか、残念だけど押し付けは良くないもんね。でも呼びたくなったらいつでも名前で呼んでね」
愛指さんは寂しそうに眉を垂らしながら、しかし笑顔を崩さなかった。この場に流れた微妙な空気をジョージは読めてはいないのか、愛指さんへ楽しそうに話し掛けた。愛指さんも笑ってそれに答えている。
それを見ている私は何故か二人が遠い存在に感じられた。この場にいる筈の私はそこにはおらず、しかしこうでありたいと思いながらも心の底に渦巻く何かを感じずにはいられなかった。
その渦巻くものの正体が何であるのかなど、今の私には知る由もなかった。
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