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それから程なくして私の家へと辿り着いた。あれから私は愛指さんと何かを話すことはなかった。ジョージは舌が取れそうな程に話を絶やすことはなかった。
「それじゃあまたね」と愛指さんは小さな手を振り、私達に背を向け駆けていく。彼女の向かう先の空には重たく厚い雲が掛かっていて、梅雨の始まりはすぐそこだと告げているような気がした。
「とても良い方ですね、いとさん」
私の横で彼女の背に手を振りながらジョージは言った。ジョージの言う通りだと思う。こんな私に彼女は優しくしてくれる。
彼女の笑顔を見ていればそれが下心のある行為ではないことぐらい理解できる。私は本当は気が付いているのだ。愛指さんが毎日しつこいぐらいに私に構ってくる理由に。
だけど私はそれを望んではいない。私は自分の意思で孤独を選んだのだ。それ故に愛指さんの優しさに気が付かない振りをする。し続けるのだ。
今日の私はどうかしていた。こんな時間も悪くないと思い、あまつさえ居心地が良いとすら感じてしまった。そんなことはあってはならない。
だから私は自分の気持ちに嘘を吐き続ける為に、あえて私はジョージの言葉にこう答える。
「……そうかしら。私はあの子に付き纏われて疲れるし、迷惑なだけだわ」
私は生き方を変えない。
「それは嘘ではありませんか? 駅から出てきた稔子さんはとても柔らかな表情をされていました」
どれだけ優しさをかけられても、最後はきっと辛い思いをするのだから。
「そう見えたのならアンタの眼は節穴なのかも知れないわね」
今がどれだけ辛くても、またあんな思いを背負うぐらいなら、私はこのままでありたい。
「そんなことはありません。ボディガードの眼は何時だって正確なのです」
だから私は――
「……いいえ、節穴よ」
誰の心にも近付かない。
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